第32話:自動車部品にはどんな危険物がある?Hidden DGを見抜く確認ポイント
自動車部品は、外観が金属や樹脂の部品に見えても、内部に火工品、高圧ガス、電池、燃料・油類などを含むことがあります。しかし、部品名だけを見て「危険物」「非危険物」と決めることはできません。同じエアバッグ関連部品でも設計と試験結果によって分類が異なり、同じショックアブソーバーでも封入物、圧力、構造、適用する特別規定によって扱いが変わります。
本記事では、自動車部品に潜みやすい輸送危険物を、火工式安全装置、ガス封入部品、燃料系中古部品、電池・電装品、液体・磁性部品に分けて解説します。また、「Auto Parts」とだけ記載することの問題、SDSだけでは判断できない場合、非危険物であることを説明するために必要な根拠、航空・海上輸送前の確認手順も整理します。
目次
自動車部品はHidden DGになりやすい
Hidden Dangerous Goodsとは、一般的な品名や外観からは危険物が含まれていると気づきにくい貨物を指します。自動車部品には、エアバッグ用インフレーター、シートベルトプリテンショナー、リチウム電池、湿式電池、ガス封入装置、燃料が残った部品、エアゾール、接着剤、塗料などが含まれる可能性があります。このため、「自動車部品」という大分類だけでは、運送人が分類、包装、表示、書類、積載条件を判断できません。
ただし、自動車部品を「危険物の宝探し」や「火薬・圧力・化学反応が巧妙に隠されている」と表現すると、意図的な隠蔽のような印象を与えます。実務で必要なのは、恐怖をあおることではなく、機能から危険性の有無を質問することです。瞬時に作動する安全装置か、ガスや液体を封入しているか、通電・蓄電するか、燃料系統に使われた中古品か、強力な磁石を使うか、と分解して確認します。
また、危険物になり得る部品群であっても、その製品が必ず危険物とは限りません。分類には、内容物、量、濃度、圧力、容器・構造、試験結果、損傷状態、取り付け状態、輸送モード、規則の版が関係します。「ショックアブソーバーはClass 2」「中古燃料ポンプはClass 3」「ブレーキ液は危険物」と部品名だけで一律判定しないことが重要です。
| 部品の機能 | 確認する危険性 | 確認資料の例 |
|---|---|---|
| 瞬時に膨張・巻取り・解除する | 火工品、ガス発生器、蓄圧 | 型式別分類書、試験・承認資料 |
| 圧力や冷媒を保持する | 圧縮ガス、液化ガス | 仕様書、封入物、圧力、容量 |
| 燃料系統で使用した | 残留液、蒸気 | 使用履歴、排出・洗浄記録 |
| 蓄電・通電する | リチウム電池、湿式電池、短絡 | 電池仕様、UN38.3関係資料 |
| 強力な磁石を持つ | 航空機器への磁気影響 | 磁界測定結果、梱包後評価 |
エアバッグなどの火工式安全装置
エアバッグインフレーター、エアバッグモジュール、シートベルトプリテンショナー、歩行者保護用アクチュエーターなどには、衝突時に短時間で作動する火工式または蓄圧式の機構が使われる場合があります。輸送上は、完成部品の名称ではなく、安全装置の設計型式、含有する危険物、試験結果、承認状態に基づいて分類します。
代表的な分類には、試験条件を満たす安全装置としてのUN3268、Class 9があります。一方、試験結果や設計によってはClass 1の分類が関係する場合もあります。したがって、「少量の火薬だからClass 1」「安全装置に組み込まれているから必ずClass 9」とは決められません。米国の49 CFR 173.166でも、エアバッグインフレーター、エアバッグモジュール、シートベルトプリテンショナー等を安全装置として定義し、Class 9、UN3268として扱うための試験・審査条件を定めています。
完成車に正しく装着された安全装置と、交換用部品として単体輸送する安全装置も分けて考えます。車両に装着された状態では車両の規定に含まれる場合がありますが、取り外した交換部品は、その部品自身の分類、包装指示、表示、書類、数量条件を確認します。作動済み品、回収品、リコール品、模倣・出所不明品は、新品の承認済み部品と同じ資料を流用しません。
- 正式な部品名、製造者、品番、型式を特定する
- インフレーター、モジュール、プリテンショナー等の別を確認する
- 火工式、蓄圧式などの作動方式を確認する
- 製造者の輸送分類書、試験・承認資料を確認する
- 新品、作動済み、回収品、リコール品を区別する
- 完成車装着状態か、部品単体かを区別する
なお、火薬量を「マイクログラム単位」と一律に説明するのは避けます。装置ごとに設計と含有量が異なり、分類は単純な火薬量だけでは決まりません。
ガス封入部品と燃料系中古部品
ショックアブソーバー、ガススプリング、アキュムレーター、消火器、冷媒を含む空調部品などは、ガスまたは液化ガスを含む可能性があります。重要なのは、ガスが入っているという一点だけでClass 2と断定しないことです。封入物の種類、圧力、容量、構造、漏えい防止、適用される物品名や特別規定を確認します。ショックアブソーバーには、一定条件下で規制対象外または別の扱いとなるものもあるため、製造者資料と現行規則の確認が必要です。
エアコン用コンプレッサーも、単体名称だけでは判断できません。新品で冷媒が封入されていない部品と、回収品で冷媒や潤滑油が残っている部品では状態が異なります。「エアコン部品」という品名ではなく、冷媒の有無と種類、回収・排出状態、密閉箇所を確認します。消火器も内容物、充填圧力、容量によって分類と輸送条件が変わります。
中古の燃料ポンプ、インジェクター、燃料タンク、キャブレター、燃料配管などは、残留燃料や可燃性蒸気を確認します。ただし、「一度でも燃料を通したら、洗浄・乾燥証明がない限り必ずClass 3」とする一律ルールではありません。実際の残留物、排出・清浄方法、密閉状態、においだけに頼らない確認、適用規則の分類基準に基づいて判断します。空に見える燃料タンクでも蒸気が残る可能性があるため、目視だけで非危険物とは判断しません。
| 部品例 | 確認事項 | 避ける判断 |
|---|---|---|
| ショックアブソーバー・ガススプリング | 封入物、圧力、容量、構造、特別規定 | 窒素入りだから自動的にClass 2 |
| エアコン部品 | 冷媒の有無・種類、回収状態、油の残留 | コンプレッサーという名前だけで分類 |
| 消火器 | 内容物、圧力、容量、作動状態 | 車載品だから車両扱いを流用 |
| 燃料系中古部品 | 残留液・蒸気、排出・洗浄、密閉状態 | 中古品はすべてClass 3、または空だから非該当 |
電池・液体・磁性を含む部品
自動車用電池は、鉛蓄電池、リチウムイオン電池、リチウム金属電池、ナトリウムイオン電池、ニッケル水素電池など種類があり、単体、機器同梱、機器内蔵、車両搭載で適用する輸送品名や条件が変わります。鉛蓄電池も、電解液を含む湿式電池、漏れ防止型の条件を満たす電池などで扱いが異なります。リチウム電池では、種類、Wh定格またはリチウム含有量、UN38.3試験、短絡防止、損傷・欠陥・リコールの有無、充電状態等を確認します。
ブレーキ液、不凍液、潤滑油、洗浄液などの液体も、名称だけでClass 3、6.1、8、9のいずれかに当てはめません。同じ用途でも化学組成、引火点、毒性、腐食性、環境有害性が異なります。SDS第2項、第9項、第14項、第15項を確認し、輸送モード別の分類を確認します。GHS上で有害性表示があることと、航空・海上輸送上の危険物に該当することは同義ではありません。
大型スピーカー、モーター、アクチュエーター、磁石を含む治具などは、航空輸送で磁性物質の確認が必要になる場合があります。しかし、ネオジム磁石を使っているだけで自動的に危険物になるわけではありません。梱包後の磁界が規定の判定基準を超えるかを測定し、必要に応じて遮蔽、配置変更、分類・表示を行います。海上輸送と航空輸送で同じ扱いになるとは限りません。
- 電池:化学系、型式、定格、試験、荷姿、状態を確認
- 液体:商品用途ではなく、成分・物性と輸送情報を確認
- 磁性部品:磁石の種類ではなく、梱包後の磁界を確認
- 損傷・欠陥・リコール品:新品の分類資料をそのまま流用しない
- 海上・航空:一方の非該当情報を他方へ流用しない
「Auto Parts」だけでは情報が足りない
送り状やインボイスに「Auto Parts」とだけ記載することは、直ちに禁止用語というわけではありません。しかし、具体的な品目を特定できず、Hidden DGが含まれていないかを確認できないため、通関業者、フォワーダー、航空会社、船会社から追加照会を受けやすくなります。社内でも、英語品名や品番だけでは使用部位・材質を特定できず、図面や製造検討資料、技術部門の支援が必要になることが確認されています。
記載は、Shock Absorber、Seat-belt Pretensioner、Air Bag Module、Lithium-ion Battery Pack、Used Fuel Pumpなど、現物を特定できる具体的な一般品名を使用します。加えて、品番、製造者、用途、新品・中古、電池・ガス・液体・火工品の有無、残留物の状態を補足します。ただし、インボイスに「Not Restricted」と書くだけで非危険物になるわけではありません。根拠資料を準備し、照会時に説明できる状態にします。
SDSは重要ですが、自動車部品のような成形品・物品ではSDSが発行されないことや、SDS第14項だけでは型式別分類を確認できないことがあります。安全装置なら製造者の分類・試験資料、電池なら電池仕様とUN38.3 Test Summary等、磁性品なら測定結果、中古燃料系部品なら排出・清浄記録など、対象に合った資料を使います。「SDSがないから非危険物」「SDSが古いが品名が同じだから使用可能」とは判断しません。
| 記載・資料 | 望ましい内容 |
|---|---|
| インボイス・送り状 | 具体的な部品名、品番、材質・用途、新品・中古の別 |
| 危険物分類根拠 | UN番号、正式輸送品名、クラス、試験・承認、適用規則 |
| 非危険物説明 | 非該当と判断した条件、仕様書、試験・測定結果 |
| 中古品記録 | 使用履歴、残留物、排出・清浄方法、状態写真 |
| 運送人確認 | 航空会社・船会社・フォワーダーの受託回答 |
出荷前に行う危険物確認フロー
出荷相談を受けたら、最初に具体的な部品を特定します。製造者、品番、正式部品名、用途、図面・仕様書、新品・中古、完成車装着品・交換部品・試作品の別を確認します。社内の輸入実務でも、正しい申告のためには材質と自動車の使用部位が必要であり、英語品名だけでは特定できない部品について、図面データや技術部門の知見を組み合わせて確認する運用が検討されています。
次に、危険性の入口を質問します。火工式・蓄圧式で作動するか、ガスや冷媒を含むか、電池を含むか、液体が封入されているか、燃料系統で使用されたか、強力な磁石を含むかを確認します。該当する場合、型式別の製造者資料、SDS、試験資料、測定結果、清浄記録を集め、危険物担当者が現行版の航空・海上規則で分類します。
分類後は、包装、短絡・誤作動防止、漏えい防止、表示、ラベル、書類、数量制限、積載・隔離、運送人の受託条件を確認します。危険物に該当しない場合も、何を確認して非該当としたかを記録します。情報が不足する場合は、推測で「Not Restricted」と記載せず、確認が完了するまで出荷を止めます。
| 段階 | 確認内容 |
|---|---|
| 1. 部品特定 | 製造者、品番、具体的品名、用途、図面、新品・中古 |
| 2. 危険性確認 | 火工品、ガス、電池、液体、燃料残留、磁性 |
| 3. 状態確認 | 装着・単体、作動済み、損傷、回収、リコール、清浄状態 |
| 4. 資料確認 | SDS、仕様書、試験・承認、UN38.3、測定・清浄記録 |
| 5. モード別分類 | 航空・海上・陸上のUN番号、正式輸送品名、クラス等 |
| 6. 出荷条件 | 包装、表示、書類、数量、積載、受託条件 |
| 7. 現物照合 | 現物、品番、数量、荷姿、申告内容、写真記録の一致 |
自動車部品の危険物判定で最も重要なのは、見えない危険を勘で当てることではありません。「Auto Parts」という大きな箱を、具体的部品名、機能、内容物、状態、資料、輸送モードへ分解することです。部品名だけで危険物と決めず、非該当とも決めず、根拠をそろえて安全に運べる条件へつなげましょう。
参照・参考
- IATA「Dangerous Goods Regulations (DGR)」
- IATA「Dangerous Goods Manuals」
- eCFR「49 CFR 173.166 Safety devices」
- UNECE「Proposal concerning Safety Devices for Vehicles」
- FAA「Lithium Battery Resources」
- IMO「IMDG Code」
- 国土交通省「航空:関係法令について」
- 国土交通省「危険物の海上運送等に係る安全対策」
スポンサーリンク
