中東情勢で危険物輸送に何が起きているか|紅海・ホルムズ・航空危険物の実態と荷主対応
中東情勢の不安定化は、国際物流全体に影響を与えていますが、特に危険物輸送は影響を受けやすい分野です。危険物は、通常貨物と異なり、船社・航空会社・港湾・空港・保険会社・各国当局の判断が重なって輸送可否が決まるため、地政学リスクが高まる局面では制限が顕在化しやすくなります。
本記事では、2025年後半から2026年にかけての中東情勢を背景に、危険物輸送で実際に何が起きているのかを、海上輸送・航空輸送の両面から整理します。紅海、バブ・エル・マンデブ海峡、ホルムズ海峡、中東空域といった要衝での変化を軸に、荷主が実務で注意すべきポイントを解説します。
目次
中東情勢と危険物輸送の全体像
中東情勢の悪化により、危険物輸送では主に次の事象が同時に発生しています。第一に、紅海・ホルムズ海峡といった海上チョークポイントのリスク上昇です。第二に、船社による危険物貨物の受託停止・制限です。第三に、中東空域の混乱による航空危険物輸送の制約です。これらは個別ではなく、相互に連鎖して物流全体に影響を与えています。
IMO(国際海事機関)は、紅海地域での商船攻撃を継続的に監視しており、船員・船舶・貨物の安全確保を強く呼びかけています。紅海は世界貿易における重要航路であり、ここでの不安定化は危険物輸送に直接影響します。
紅海・バブ・エル・マンデブ海峡で起きていること
紅海およびバブ・エル・マンデブ海峡では、フーシ派による商船攻撃を背景に、船社が航行リスクを高く評価しています。米国運輸省海事局(MARAD)は2026年3月のアドバイザリーで、紅海、バブ・エル・マンデブ海峡、アデン湾周辺において、無人機(UAV)、無人艇(USV)、ミサイル、小型艇、拿捕などの脅威が存在すると明示しています。
IMOも、紅海地域における過去の商船攻撃事例を公開しており、危険物を積載した船舶が被害を受けた場合、人的被害や環境汚染リスクが拡大する点を問題視しています。
この結果、多くの船社が紅海・スエズ運河ルートを回避し、喜望峰回りへの迂回を選択しています。World Shipping Councilは、船社が船員と貨物の安全確保を最優先に判断していることを説明しています。
ホルムズ海峡・ペルシャ湾の影響
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とインド洋を結ぶ世界有数の戦略的海峡です。中東情勢の緊張により、湾岸地域向けの海上輸送は不安定化しています。
DHL Global Forwardingは2026年4月時点のアップデートで、ホルムズ海峡が商業輸送に大きな制約を受け、コンテナ航行が事実上停止している状況を報告しています。この影響で代替港の混雑や迂回輸送が発生しています。
Maerskも中東向けのオペレーションアップデートにおいて、ホルムズ海峡の通航については継続的なリスク評価に基づき判断しており、情勢次第で制限が変わる可能性があるとしています。
船社による危険物予約停止・制限
中東情勢の直接的な影響として顕在化しているのが、船社による危険物貨物の予約停止です。
Maerskは2026年3月、イスラエル港湾で特定の危険物クラス(Class 1、2.1、2.3、5.2など)を制限し、さらにUAE、オマーン、イラク、クウェート、カタール、バーレーン、サウジアラビア、ヨルダン向け・発の危険物貨物を全面的に禁止すると発表しました。
CMA CGMも2026年3月に、中東および周辺国(UAE、サウジアラビア、カタール、イラク、バーレーンなど)向けの危険物・有害貨物の予約を即時停止しています。APLも同様に、複数の中東・周辺国向けで危険物予約を停止しています。
これらは危険物の性質そのものではなく、「地政学リスク下でのオペレーション安全確保」を理由とした制限であり、規則上輸送可能な危険物であっても実務上は輸送できない状況が生じています。
航空貨物・航空危険物への影響
中東情勢は航空貨物にも大きな影響を与えています。IATAは2026年3月の航空貨物統計で、中東地域の航空貨物需要と供給能力が大幅に減少したと発表しています。その主因として、中東での軍事的緊張と空域制限を挙げています。
cargo.oneは、中東空域の閉鎖や制限により、UAE、カタール、サウジアラビア、イランなどを含む広範な地域で航空貨物の運航停止や予約制限が発生していると説明しています。
航空危険物は、通常貨物よりも受託条件が厳しく、特にClass 1やリチウム電池を含む貨物は、航空会社ごとに制限が設けられています。中東ハブを経由するルートでは、途中で受託不可となるリスクが高まっています。
なぜ危険物は影響を受けやすいのか
危険物輸送が中東情勢の影響を強く受ける理由は明確です。第一に、事故発生時の被害が通常貨物より大きいことです。第二に、港湾・空港・航空会社が独自の受託基準を持っていることです。第三に、保険条件が戦争リスクに大きく左右されることです。
そのため、危険物では「規則上可能」でも「実務上不可」という状況が生じやすく、情勢悪化時には真っ先に制限対象になります。
荷主が今確認すべき実務ポイント
荷主が確認すべき最重要点は、「その危険物が、今このルート・船社・航空会社で本当に受け入れられるか」です。SDSやUN番号の確認だけでは不十分です。
船社・航空会社の最新アドバイザリー、経由地での受託可否、代替ルート、戦争リスク保険、追加サーチャージの有無を、出荷直前まで確認する必要があります。
まとめ
中東情勢の悪化により、危険物輸送では航路回避、予約停止、航空制限が同時多発的に起きています。これは一時的な混乱ではなく、地政学リスクが高い間は繰り返し起こり得る構造的な問題です。
危険物を扱う荷主にとって重要なのは、「通常時の延長」で考えないことです。情勢変化を前提に、常に最新情報を確認し、複数ルート・複数手段を想定した輸送計画を持つことが求められます。
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参照・参考リンク
- IMO Red Sea area
- MARAD Advisory 2026-006
- World Shipping Council Red Sea Security
- Maersk Dangerous Goods Restrictions
- CMA CGM Advisory #4
- APL Stop Booking for Dangerous Goods
- IATA Air Cargo Market Update
- cargo.one Middle East Airspace Disruptions
- DHL Middle East Crisis Situation Updates
- 国土交通省 危険物の海上運送等に係る安全対策
