国連番号に関係する国内法・国際ルール・業界ルールと2020年から2026年頃の改定動向
国連番号、いわゆるUN番号は、危険物を国際輸送する際に、物質や物品を識別するための共通番号です。実務では、国連番号だけを確認すれば輸送可否が判断できるわけではありません。国連番号、正式輸送品名、危険物クラス、容器等級、包装基準、表示、書類、輸送モード、国内法、仕向国の規制、航空会社や船会社の受託条件をあわせて確認する必要があります。
この記事では、国連番号に関係する国連ルール、国際条約、海上輸送ルール、航空輸送ルール、陸上輸送ルール、日本国内法、業界ルールの関係を整理し、2020年頃から2026年頃までの主な改定動向をまとめていきます。単なる国連番号の意味ではなく、危険物輸送を取り巻くルール全体の関係性と、近年の改定トレンドを理解することを目的としていますので、その一助になれば幸いです。
国連番号に関係するルール体系の全体像
国連番号に関係するルールは、大きく分けると、国連ルール、国際条約・国際機関ルール、国内法、業界ルールの四層で整理できます。最上位の共通ルールとして、国連の危険物輸送に関する勧告、いわゆるUN TDGがあります。その内容が、海上輸送ではIMDGコード、航空輸送ではICAO-TIやIATA-DGR、欧州の道路輸送ではADR、鉄道輸送ではRIDに展開され、さらに各国の国内法に取り込まれます。というのも、国際ルールであってもそれを守らせる実効性を持たせるには、適用させる国の法令にしなければならないためです。
| 階層 | 主なルール | 役割 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|---|---|
| 国連ルール | UN TDG モデル規則、試験方法及び判定基準のマニュアル、GHS | 危険物の分類、国連番号、危険物リスト、包装、表示、試験方法の基礎を定めたものです。2年に1回改定されます。 | SDS第14項に記載される国連番号、品名、クラス、容器等級の根拠になります。 |
| 海上輸送 | SOLAS条約(第VII章Part A)、IMO、IMDGコード | 海上輸送における危険物の分類、包装、表示、積載、隔離、書類を定めたものです。IMDGコードはSOLAS条約第VII章Part Aの下で実効性を持つルールとなります。 | 船便で危険物を輸送する場合は、IMDGコードと船会社の受託条件を確認することになります。 |
| 航空輸送 | シカゴ条約附属書18、ICAO-TI(Doc 9284)、IATA-DGR | 航空輸送における危険物の分類、包装、表示、書類、旅客機・貨物機の制限を定めたものです。ICAO-TIが法的根拠であり、IATA-DGRはICAO-TIに準拠した業界規則です。 | 航空便ではIATA-DGRと航空会社の運航者例外規定を確認することになります。 |
| 陸上輸送(国際) | ADR(欧州道路輸送協定)、RID(鉄道危険物輸送規則)、ADN(内陸水路) | 欧州を中心とした道路・鉄道・内陸水路での危険物輸送を規制します。UN TDGと整合し、2年に1回改定されます。 | 欧州向け陸上輸送、鉄道輸送を行う場合はADRやRIDを確認します。 |
| 日本国内法 | 船舶安全法、危険物船舶運送及び貯蔵規則、航空法、消防法、毒物及び劇物取締法、道路法、高圧ガス保安法など | 国際ルールを国内法に反映し、国内での輸送、保管、表示、取扱いを規制したものです。 | 輸出入だけでなく、国内陸送、倉庫保管、工場内保管でも確認が必要です。 |
| 業界ルール | IATA-DGR、航空会社の運航者例外規定、船会社規定、フォワーダー運用、港湾・空港の受託条件 | 国際ルールや国内法に加えて、実際の受託可否や運用条件を定めます。 | 法令上可能でも、キャリアの受託条件により輸送できない場合があります。 |
ルール同士の関係
国連番号に関係するルールは、上位概念としてUN TDGがあり、実務では輸送モードごとに具体化されています。海上輸送ではIMDGコード、航空輸送ではICAO-TIおよびIATA-DGR、欧州の道路輸送ではADR、鉄道ではRID、日本国内では船舶安全法や航空法などに接続されます。以下の表は、国連番号を起点に、どのルールを確認すべきかを実務者向けに整理したものです。ご参考まで。
| 起点 | 輸送モード | 国際ルール | 日本国内で対応する主な法令・規則 | 実務で確認する情報 |
|---|---|---|---|---|
| UN TDGモデル規則 | 海上輸送 | SOLAS条約(第VII章Part A)、IMDGコード | 船舶安全法、危険物船舶運送及び貯蔵規則、船舶による危険物の運送基準等を定める告示(危告示) | 国連番号、正式輸送品名、クラス、容器等級、包装、表示、危険物申告書、船会社Approval |
| UN TDGモデル規則 | 航空輸送 | シカゴ条約附属書18、ICAO-TI(Doc 9284)、IATA-DGR | 航空法、航空機による爆発物等の輸送基準等を定める告示、航空会社の運用規定 | 国連番号、包装基準(PI)、旅客機・貨物機制限、Shipper's Declaration、運航者例外規定 |
| UN TDGモデル規則 | 欧州道路輸送 | ADR(欧州危険物道路輸送協定) | 日本国内の道路輸送には直接適用されません。欧州向け輸出品の陸上輸送区間で関係してくる協定です。 | ADR分類、包装、表示、輸送文書、運転者訓練、車両カテゴリー |
| UN TDGモデル規則 | 鉄道輸送 | RID(鉄道危険物輸送規則、OTIF/COTIF附属書C) | こちらも日本国内の鉄道輸送には直接適用されません。欧州・アジア向けの鉄道輸送で関係する規則です。 | RID分類、包装、タンク車要件、輸送文書 |
| UN TDGおよびGHS | SDS・化学品管理 | GHS、TDGの試験方法及び判定基準 | 労働安全衛生法、化管法、毒劇法、消防法など | SDS第14項、危険有害性分類、輸送上の注意、国内保管・取扱い規制 |
| 国際輸送後の国内移動 | 日本国内陸上輸送 | 国際ルールを参考にしつつ、国内個別法で対応します。 | 消防法、道路法、毒物及び劇物取締法、高圧ガス保安法など | 国内輸送制限、トンネル通行制限、指定数量、保管場所、表示、運搬基準 |
国連ルールの改定動向
国連の危険物輸送勧告、UN TDGは、危険物輸送ルールの基礎になるものです。モデル規則は2年に1回更新され、危険物の定義、危険物リスト、容器、表示、書類、輸送手続きなどに影響します。2020年頃から2026年頃にかけては、電池技術、新素材、再生材、環境有害物質、代替エネルギー関連物質への対応が顕著です。特に2023年の第23版でナトリウムイオン電池と電池駆動車両の新UN番号体系が導入され、2025年の第24版でハイブリッド電池や貨物輸送ユニット内設置電池への対応が進んでいます。
| 年度・版 | 主な内容 | 改定の趣旨 | 実務上の意味 |
|---|---|---|---|
| 2021年・改訂第22版 | 危険物輸送に関するモデル規則の改訂版として発行されました。 | 各国および国際輸送モードにおける危険物輸送ルールの統一性を維持することが目的です。 | 海上、航空、陸上の各規則改定の基礎になります。 |
| 2023年・改訂第23版 | ナトリウムイオン電池の輸送に関する新UN番号(UN3551、UN3552)が導入されました。電池駆動車両について3つの新UN番号(UN3556:リチウムイオン電池駆動車両、UN3557:リチウム金属電池駆動車両、UN3558:ナトリウムイオン電池駆動車両)が新設されました。消火剤散布装置(UN0514、UN3559)、ジシラン(UN3553)、機械類に含まれるガリウム(UN3554)、アセトン中のトリフルオロメチルテトラゾールナトリウム塩(UN3555)、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液25%以上(UN3560)にも新UN番号が割り当てられました。量産前プロトタイプ電池の輸送免除、再生プラスチック材料の使用要件更新、ニトロセルロース膜フィルター(迅速検査装置用)の免除なども含まれます。 | ナトリウムイオン電池という新しい電池化学系、電池駆動車両の増加、消火技術、半導体材料などの輸送安全を確保することが目的です。電池駆動車両はこれまでUN3171で一括分類されていましたが、電池化学系ごとに分類を明確化する方向に転換されました。 | ナトリウムイオン電池や電池駆動車両を扱う企業では、SDS、品番マスタ、輸送書類の更新が必要です。電池駆動車両のUN3171からUN3556・UN3558への切り替えは、海上・航空・陸上の各規則に順次反映されています。 |
| 2025年・改訂第24版 | リチウムイオン電池とナトリウムイオン電池を含むハイブリッド電池への対応が示されました。貨物輸送ユニットに設置されたリチウム金属電池(UN3563)およびナトリウムイオン電池(UN3564)の新エントリー、UN3536の記述変更(「リチウム電池」から「リチウムイオン電池」への限定)、ISO規格参照の更新、フレキシブルIBCにおける再生プラスチック材料の使用、輸送中に液状化し得る固体物質の包装規定の明確化、液体有機水素キャリア(LOHC)、サルベージ圧力容器、エネルギー性サンプル、少量の環境有害液体物質の包装免除、FRP製ポータブルタンク付属設備などが改定項目として含まれます。2024年12月6日の委員会で採択されました。 | ハイブリッド電池化学系、貨物輸送ユニット内の大型電池設置、新素材、環境対応、代替エネルギー関連物質の輸送安全を確保することが目的です。 | 電池関連製品、代替エネルギー関連製品、環境有害物質を扱う企業では、SDS、品番マスタ、輸送書類、物流会社確認項目の更新が必要になります。特にUN3563、UN3564は大型電池の輸送に関わる新エントリーであり、車両・機器メーカーに影響します。 |
海上輸送ルールの改定動向
海上輸送では、SOLAS条約第VII章Part Aの下でIMDGコードが強制化されており、重要な役割を持ちます。日本では、IMDGコードの内容が船舶安全法、危険物船舶運送及び貯蔵規則(危規則)、船舶による危険物の運送基準等を定める告示(危告示)などに取り込まれます。そのため、IMDGコードが改定されると、日本国内の海上危険物輸送規則にも影響します。
逆に言えば、IMDGの改正内容は危告示、危規則に反映されるのでそちらから調べるという方法もあります。
| 年度・改正 | 主な内容 | 改定の趣旨 | 実務上の意味 |
|---|---|---|---|
| 2022年から2023年頃・IMDG 41-22関連 | IMDGコード第41回改正を受け、日本では危規則および危告示の一部改正が行われました。小型容器の定義見直しや名称変更に関する改正が含まれます。 | IMDGコード改正に合わせ、日本国内規則との整合を取ることが目的です。 | 容器区分、包装、許可の要否など、海上輸送実務の確認項目が変更されました。 |
| 2024年5月採択・IMDG 42-24 | IMOの第108回海上安全委員会で、決議MSC.556(108)によりIMDGコード改正42-24が採択されました。UNモデル規則第23版の内容が反映され、以下の新UN番号が追加されました。UN3551(ナトリウムイオン電池)、UN3552(機器組込・同梱のナトリウムイオン電池)、UN3556(リチウムイオン電池駆動車両)、UN3557(リチウム金属電池駆動車両)、UN3558(ナトリウムイオン電池駆動車両)。リチウムまたはナトリウムイオン電池駆動車両は、従来のUN3171ではなく、新しいUN番号で分類することが求められます。UN3536(貨物輸送ユニットに設置されたリチウム電池)は積載カテゴリーDに変更され、甲板上のみの積載となり、25名超の旅客を乗せる旅客船では禁止されました。炭素(UN1361)については特別規定が大幅に変更され、SP925が削除されました。危険物リストに60超の改訂、包装指図に50超の更新、特別規定に30超の変更が含まれます。 | UNモデル規則第23版の改定内容を海上輸送に反映し、電池、車両、新素材、海洋汚染物質などの輸送リスクをより明確に管理することが目的です。 | 2025年1月1日から任意適用、2026年1月1日から強制適用です。船会社の危険物積載承認(Approval)、危険物申告書、SDS、包装、ラベル、コンテナ表示、プラカード(SP962対応)、社内チェックリストの見直しが必要です。特に電池駆動車両のUN3171からUN3556、UN3558への切り替えは、ブッキングデータや輸送書類に直接影響します。 |
| 2024年12月から2025年1月・日本国内法への取り込み | 2024年12月27日に「船舶による危険物の運送基準等を定める告示」の一部改正が公布され、2025年1月1日から施行されました。IMDGコード第42回改正を取り入れたものです。新たにUN3551(ナトリウムイオン電池)、UN3552、UN3553(ジシラン)、UN3554(ガリウム)、UN3555、UN3556(リチウムイオン電池駆動車両)、UN3557、UN3558、UN3559(消火剤散布装置)、UN3560(水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液25%以上)の運送要件が危告示に規定されました。木炭等(UN1361)の運送要件も改正されています。 | IMDGコード第42回改正の内容を日本国内規則に反映し、国際基準との整合を維持することが目的です。なお、今回のIMDGコード改正の内容は危告示で担保されており、危規則自体の改正は要しないとされています。 | 日本から船便で輸出入する企業は、2025年1月1日以降、新UN番号に対応した危険物申告書、ラベル、包装を使用する必要があります。日本国内法への取り込みはIMDGコードの任意適用開始日と同日に施行されたため、実務上は2025年初頭から対応が求められます。 |
航空輸送ルールの改定動向
航空輸送では、ICAO-TI(Doc 9284)が法的根拠であり、IATA-DGRはICAO-TIに準拠した業界規則です。ICAO-TIは2年に1回、IATA-DGRは毎年改定されます。ICAO-TI 2025-2026版はUNモデル規則第23版に整合し、2025年1月1日から2026年12月31日まで有効です。IATA-DGR第66版(2025年)と第67版(2026年)では、特にリチウム電池、ナトリウムイオン電池、電池駆動車両、モバイルバッテリー、充電率制限、サプライチェーン責任に関する改定が目立ちます。
| 年度・版 | 主な内容 | 改定の趣旨 | 実務上の意味 |
|---|---|---|---|
| 2020年から2024年・IATA-DGR第61版から第65版 | JACISでは、各年版のIATA-DGR主要改定点が公開されています。 | 航空危険物輸送の国際基準を毎年更新し、輸送実態や安全課題に対応することが目的です。 | 航空便を利用する企業は、毎年、包装基準、表示、書類、運航者例外規定の更新確認が必要です。 |
| 2025年・ICAO-TI 2025-2026版 | UNモデル規則第23版に整合し、ナトリウムイオン電池(UN3551、UN3552)、電池駆動車両(UN3556・UN3558)、消火剤散布装置(UN0514、UN3559)、ジシラン(UN3553)、ガリウム含有物品(UN3554)、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(UN3560)などの新エントリーが追加されました。ナトリウムイオン電池の分類基準(2;9.4)も新設されています。 | 航空輸送における危険物規制を国連モデル規則第23版と整合させ、航空固有の安全リスクに対応することが目的です。 | 2025年1月1日から2026年12月31日まで有効です。IATA-DGRはこのICAO-TIに準拠して改定されるため、航空輸送を行う企業はICAO-TIの改定内容も把握しておくことが望ましいです。 |
| 2025年・IATA-DGR第66版 | ナトリウムイオン電池の分類追加(UN3551、UN3552)、電池駆動の乗り物に関する新たなUN番号(UN3556・UN3558)や正式輸送品目名の割当が行われました。リチウムイオン電池のPI966(機器同梱)について、充電率(SoC)を30%以下とすることが2026年1月1日から必須化されることが示されました。電池マーク名称や第9分類ラベル名称の変更も含まれます。なお、2025年版ではUN3481(機器組込・同梱)やUN3556(リチウムイオン電池駆動車両)についてもSoC 30%以下が推奨されています。 | 電池技術の多様化と航空輸送中の発火・過熱リスクに対応することが目的です。 | 電池、電池同梱機器、電池内蔵機器、電池駆動車両を扱う企業では、分類、SOC管理、包装、表示、書類の再確認が必要です。 |
| 2026年・IATA-DGR第67版 | 一般理念にサプライチェーンの安全性と各当事者の役割に関する記述が追加されました。モバイルバッテリー(power bank)を含む予備リチウム電池の受託手荷物禁止の明確化、客室内での予備電池に関する推奨規定(機内電源での充電禁止、離着陸時の使用制限、頭上収納棚への格納禁止等)が追加されました。UN3166の品名に「hybrid」が追加され、可燃性ガス駆動ハイブリッド車両と可燃性液体駆動ハイブリッド車両が明確化されました。PI966(機器同梱)におけるSoC 30%以下が必須要件となりました。なお、PI967(機器組込)については30%以下は推奨にとどまり、必須ではありません。新たなCargo-IMPコードとして、RVB(UN3556・UN3558の電池駆動車両)、RVF(可燃性ガス・液体駆動車両)、RVH(UN3166ハイブリッド車両)、VRO(UN3171その他の車両)が導入されました。SDSに関する定義がAppendix Aに追加され、GHSとの関係がAppendix Bに記載されました。 | 航空危険物輸送を荷主、フォワーダー、航空会社、空港関係者を含むサプライチェーン全体で管理することが目的です。また、リチウム電池の航空輸送中の安全性をさらに強化し、旅客の手荷物に関する規定を明確化することが目的です。 | 航空輸送では、法令上の分類だけでなく、航空会社ごとの運航者例外規定、旅客手荷物規定、受託条件の確認がより重要になります。PI966とPI967でSoC要件が異なるため、機器同梱と機器組込の区別に注意が必要です。ハイブリッド車両のUN3166と電池駆動車両のUN3556・UN3558の使い分けも確認が必要です。なお、一部の航空会社(例:UPS)はUN3551のナトリウムイオン電池について欧州発着便での輸送を運航者例外規定で禁止しています。 |
欧州陸上輸送ルールの改定動向
欧州を中心とした道路輸送ではADR(欧州危険物道路輸送協定)、鉄道輸送ではRID(鉄道危険物輸送規則)が適用されます。いずれもUN TDGと整合し、2年に1回改定されます。ADRはUNECEの危険物輸送作業部会(WP.15)で審議され、RIDはOTIF(政府間国際鉄道輸送機関)が管理します。ADR、RID、ADN(内陸水路)はマルチモーダル輸送を円滑にするために相互に調整されています。日本から欧州へ輸出する製品が現地で道路・鉄道輸送される場合や、欧州の顧客・物流拠点がADR/RIDの遵守を求める場合に関係します。
| 年度・版 | 主な内容 | 改定の趣旨 | 実務上の意味 |
|---|---|---|---|
| 2025年・ADR 2025 | 2025年1月1日発効、2025年7月1日から義務化です。ナトリウムイオン電池(UN3551、UN3552)が新規追加されました。電池駆動車両(UN3556:リチウムイオン、UN3557:リチウム金属、UN3558:ナトリウムイオン)が新設され、UN3171はウェット電池・金属ナトリウム電池・ナトリウム合金電池の車両に限定されました。分類コードM4がリチウム電池とナトリウムイオン電池の両方を含むよう修正されました。電池駆動車両について、道路輸送前に電気回路を安全にde-energise(通電解除)する要件が追加されました。廃塗料(SP650改正)、アスベスト廃棄物のばら積み(SP678新設)、実験室小量廃棄物(4.1.1.5.3新設)に関する規定も追加されています。 | UNモデル規則第23版を道路輸送に反映し、電池技術の進展、廃棄物輸送の実務課題に対応することが目的です。 | 欧州向けに電池製品、電池駆動車両、化学品を輸出する企業は、仕向地での道路輸送区間がADR 2025に準拠しているか確認が必要です。フォワーダーや現地物流会社との確認項目が増えます。 |
| 2025年・RID 2025 | 2025年1月1日発効、6カ月の移行期間があります。ADR 2025と調和した改定が行われ、ナトリウムイオン電池、電池駆動車両の新エントリーが含まれます。充填度(degree of filling)と充填率(filling ratio)の定義明確化、溶融アルミニウムのばら積み輸送に関する新規定(AP11、AP12)、冷凍液化ガスの保持時間要件、タンク記録の電子化許容なども含まれます。 | 鉄道輸送の安全規則をADRおよびUN TDGと整合させ、技術進歩を反映することが目的です。 | 欧州・アジアの鉄道輸送を利用する場合に関係します。タンク車の運用者やECMにとっては、充填度の定義変更やタンク記録の電子化が実務に影響します。 |
日本国内法の位置づけと改定の見方
日本の国内法は、国際ルールをそのまま参照するだけでなく、国内の輸送、保管、表示、取扱いに合わせて規制を具体化します。海上輸送では、船舶安全法、危規則、危告示が中心になります。国土交通省は、危険物の海上輸送について、IMOが定めるIMDGコードなどの国際的な安全基準に基づき、日本では船舶安全法に基づく規則で技術基準を定めていると説明しています。
2024年12月27日に危告示の一部改正が公布され、2025年1月1日から施行されました。この改正はIMDGコード第42回改正を取り入れたもので、ナトリウムイオン電池、電池駆動車両、消火剤散布装置、ジシランなどの新UN番号に対応する運送要件が日本国内法に反映されています。なお、IMDGコード第42回改正の内容は危告示で担保されており、危規則自体の改正は要しないとされています。
一方で、国内陸送については、国連TDGと直接連動するというよりも、消防法、道路法、毒物及び劇物取締法、高圧ガス保安法など、個別の国内法で確認することになります。つまり、輸出入の国際輸送ではUN番号、IMDG、IATA-DGRを確認し、国内移動や保管では消防法や道路法などを確認するという二段構えが必要です。
| 法令・規則 | 主な対象 | 国連番号との関係 | 確認すべき場面 |
|---|---|---|---|
| 船舶安全法、危規則、危告示 | 海上輸送される危険物 | IMDGコードの国内実装として、国連番号、分類、包装、表示、積載等に関係します。IMDG 42-24の内容は2025年1月1日施行の危告示改正で取り込み済みです。 | 船便輸出入、危険物申告、船会社Approval、海上輸送用包装の確認時です。 |
| 航空法および航空危険物関連規定 | 航空輸送される危険物 | ICAO-TIやIATA-DGRと接続し、航空輸送時の危険物分類や受託条件に関係します。 | 航空便出荷、旅客機・貨物機制限、航空会社への事前確認時です。 |
| 消防法 | 引火性液体、酸化性固体、可燃性固体などの危険物 | 国連番号とは別体系ですが、同じ物質が消防法上の危険物にも該当する場合があります。 | 国内保管、国内陸送、工場・倉庫での数量管理時です。 |
| 毒物及び劇物取締法 | 毒物、劇物に該当する化学物質 | 国連分類上の毒物類と重なる場合がありますが、国内法上の該非は別途確認します。 | 輸入、販売、保管、国内運搬、表示確認時です。 |
| 道路法、高圧ガス保安法など | 道路輸送、高圧ガス、特定貨物 | 国際輸送後の国内移動で、通行制限や運搬基準に関係する場合があります。 | 港・空港から工場や倉庫までの国内配送時です。 |
諸外国の動向:米国の整合化規則制定
米国では、DOT(運輸省)傘下のPHMSA(パイプライン・危険物安全局)が、49 CFR(連邦規則集第49編)を通じて危険物輸送を規制しています。2026年2月には、UNモデル規則第23版との整合を目的としたNPRM(規則制定提案告示)が公表されました。この提案は、正式輸送品名、危険物クラス、包装群、特別規定、包装認可、航空輸送量制限、船舶積載要件に関する改正を含み、国際基準との一貫性を維持し、米国経済における規制コストを低減することを目的としています。コメント期限は2026年4月13日とされています。
このように、UNモデル規則の改定は、IMDGコード、IATA-DGR、ADR、RIDだけでなく、米国の49 CFRにも波及します。国連番号をめぐるルールは、国際的に調和された枠組みの中で、各国・各輸送モードが順次取り込んでいく構造になっています。
まとめ:危険物輸送ルール改定のトレンドと方向性
2020年頃から2026年頃にかけての危険物輸送ルールの改定動向を横断的に見ると、いくつかの明確なトレンドが浮かび上がります。
電池技術の多様化への対応
最も顕著なトレンドは、電池に関する規制の拡充と精密化です。2023年のUNモデル規則第23版でナトリウムイオン電池(UN3551、UN3552)と電池駆動車両(UN3556・UN3558)の新UN番号が導入されたことは、リチウムイオン電池一辺倒だった電池輸送ルールが、複数の電池化学系を区別して管理する方向に転換したことを意味します。2025年の第24版ではさらにハイブリッド電池、貨物輸送ユニット内設置電池(UN3563、UN3564)が追加され、電池の形態・設置方法・化学系ごとの分類がより細分化されています。IMDG 42-24、IATA-DGR第66版・第67版、ADR 2025、RID 2025のいずれも、この第23版の電池関連改定を各輸送モードに反映したものです。
充電率制限の強化
航空輸送では、リチウムイオン電池の充電率(SoC)制限が段階的に強化されています。UN3480(電池単体)には既に30%制限が適用されていましたが、2026年1月1日からはPI966(機器同梱)についても30%以下が必須となりました。PI967(機器組込)については推奨にとどまりますが、IATAは30%以下を強く推奨しています。リチウムイオン電池駆動車両(UN3556)についても、2026年1月1日から30%以下または表示電池容量25%以下が必須となっています。この流れは、航空輸送中の電池火災リスクを低減する方向で今後も継続する可能性があります。
車両分類の精密化
電池駆動車両について、従来のUN3171による一括分類から、電池化学系ごとのUN3556・UN3558への切り替えが進んでいます。Maerskは、IMDG 42-24の強制適用に伴い、リチウムまたはナトリウムイオン電池駆動車両にUN3171を使用することはもはや許容されないと案内しています。IATA-DGR第67版でもUN3166にハイブリッド車両のエントリーが追加され、新しいCargo-IMPコードが導入されました。車両メーカー、物流会社、フォワーダーは、車両の電源種別に応じた正しいUN番号の使い分けが必要です。
サプライチェーン全体での責任分担
IATA-DGR第67版では、一般理念にサプライチェーンの安全性と各当事者の役割に関する記述が追加されました。これは、荷主、製造元、フォワーダー、航空会社、船会社、地上取扱代理業者、空港・港湾関係者など、危険物が通過するすべての工程で、正しい情報の受け渡しと確認が求められるという方向性を示しています。IMDGコードでも、リチウム電池について「make available(入手可能にする)」という用語の定義が追加され、製造者と後続の流通業者がUN38.3試験概要を荷送人や供給チェーンの関係者がアクセスできるようにすることが明確化されています。
環境対応と新素材
UNモデル規則第24版では、再生プラスチック材料、液体有機水素キャリア(LOHC)、環境有害物質、海洋汚染物質への対応が含まれています。IMDGコードでも、UN3077およびUN3082について5kg/5L以下の場合の免除規定が明確化されました。ADR 2025では廃塗料やアスベスト廃棄物の輸送規定が追加されています。危険物輸送ルールが安全性だけでなく、環境リスクや持続可能性も意識して更新されていることを示しています。
国際ルールから国内法への反映サイクル
国連モデル規則の改定は、おおむね以下のサイクルで各規則に反映されます。UNモデル規則の改定が採択された後、IMDGコード、ICAO-TI、ADR、RIDがそれぞれのタイミングで取り込み、さらに各国の国内法に反映されます。日本では、IMDGコードの改定を危告示改正として取り込むサイクルが確立されており、IMDG 42-24は2025年1月1日に施行済みです。米国では49 CFRの整合化NPRMが2026年2月に公表されており、各国の取り込み時期にはずれがあります。この時間差を理解しておくことは、国際輸送の実務で重要です。
今後の展望
2020年代後半にかけて、電池技術のさらなる多様化(全固体電池、ナトリウム硫黄電池など)、水素関連物質の輸送増加、電動車両の国際流通拡大、環境規制の強化が予想されます。危険物輸送ルールは、これらの技術・社会変化に対応して今後も継続的に改定される見込みです。改定年、任意適用と強制適用の時期、各輸送モードへの反映状況、日本国内法への取り込み時期について定期的に確認していくことが肝要です。
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参考リンク・情報引用元
- UNECE:UN Model Regulations Rev.24(2025)
- UNECE:UN Model Regulations Rev.23(2023)
- 労働安全衛生総合研究所:国連危険物輸送勧告(TDG)
- JETRO:危険物国際輸送における留意点
- 国土交通省:危険物の海上運送等に係る安全対策
- IMO:IMDG Code
- Britannia P&I:IMDG Code Amendment 42-24
- NCB Hazcheck:IMDG Code A42-24 Summary of Changes
- Maersk:IMDG Code Amendment 42-24 Battery Vehicle Changes
- 新日本検定協会:船舶による危険物の運送基準等を定める告示の一部改正について
- ICAO:ICAO-TI 2025-2026版の改定内容
- JACIS:IATA航空危険物規則書 第67版(2026年)主要な改定点
- IATA:DGR 67th Edition Significant Changes(2026)
- NCA Japan:IATA DGR67版(2026年)変更点について
- ANA Cargo:IATA-DGR第66版改定に伴う案内
- Health and Safety Authority(Ireland):ADR 2025 Summary of Main Changes
- FreightUtils:ADR 2025 Complete Summary
- OTIF:Publication of RID 2025
- US Federal Register:PHMSA NPRM - Harmonization with International Standards(2026)
- IATA:Battery Guidance Document(2026 Regulations)
